麻衣子の記録 連載第107回

11月27日(金)
0:00 麻衣子は眠っている。
 夕方、麻美を荒川沖駅まで送った。麻美が、いったん、鳥取に帰ることになったからだ。私は、麻美に、今度、つくばに来るのは、「ママが亡くなった後でも良い」と話した。麻美は、美帆が体調が悪いらしく、病棟へ来られないと私に言った。このため、義母には旅館ではなく、病室にいてもらうことにした。
 麻衣子の死後のことについて、義母と悶着になった。原因は娘たちが私を無視しているからだった。私が義母に愚痴を言うと、義母は常に孫の味方で、すべて私が悪いという事になってしまう。麻衣子の看護も母親としてより、孫の替わりをしているということなのだろう。他人の私と、祖母および孫との対立の構図といったところだ。義母に何を言っても無駄。麻衣子がこんなことになって、はっきりとそのことがわかった。私は私の道を進んでいこう。私の人生を取り戻そう。それが私の生きる道であろう。麻衣子の病気は、私にいろいろなことを教えてくれたと思った。
23:33 検温38.5℃ 血圧97-58
 
  ・・・・・・・・
 
 麻衣子はすでにラストステージにあったから、臨終の後のことも考えなければならなかった。娘たちが、どこかのセレモニーホールに予約済みであるというのは薄々知っていた。 
 
私から麻美へ
ママの病状は、ちょっと危ないです。今夜かもしれません。ママが息を引き取った後の手順を、美帆ときちんと打ち合わせておいてください。私は、どこの葬祭業者に予約があり、どこの斎場で火葬にするのか聞いていません。業者の窓口が誰なのかも知りません。この件で、お義母さんと揉めました。いざとなったら、私が私の実家に連れて行くと言ったからです。ママはかなり危ない様子なので。
 
 すると、麻美は、予約してあるセレモニーホールのK商事のリンク先を知らせてきた。私は初めて、その名前を知った。麻美は、麻衣子が大学病院へ入院してすぐに、そのセレモニーホールに行ったそうだ。私は、麻衣子が亡くなったその日に、K商事の担当者からそれを聞いた。
 
麻美から私へ
調べたのは私で、前に何件か電話したとき、対応してくれたのが一番感じがよかったので、いざというときは動揺して選べないだろうと思ったから、安心してお願いできそうな所にしたの。相談しなくてごめんね。早いうちから葬式のことを言うと、父さんは嫌かなと思って、言わなかったんだけど。
 
 娘たちは、一番大切なことなのに、私を無視し、勝手に進めておきながら、私に問い詰められると、言い訳だけを言った。麻衣子が望んでいるからと、家族葬だ、樹木葬だと自分たちだけで決めていた。麻衣子は現職の教員であり、学校には大勢の同僚や子供たち、保護者がいる。そこには、私の知り合いだってたくさんいる。家族葬なんかにできるわけがあるものか。

麻衣子の記録 連載第106回

8 旅立ち
11月24日(火)
 午前中に主治医(院長)から話があった。延命をどうするかについてだった。もし、私が延命を希望すれば、人工呼吸器や輸血を始めとする、様々な処置をするのだろう。
 目の前のモニターには、麻衣子の体の状態を示す数値データが表示されていた。主治医には、このデータの数値で、麻衣子のわずかな残り時間がわかるのだろうと思った。
 主治医が言うように、やっと、ここで、「延命」というステージに入るのだ。これまで、義母や娘たちが「延命には反対!」と言ってきたが、それらは「延命」ではない。これからが、「延命」を希望するか、そうしないかの選択なのだ。私はそう思った。
「延命はいいです。家内は、これまで、散々苦しんできたのだから、もう、いいです。最期は、苦痛のないように・・・・・」
「もちろん、それはやります」
「あとどれぐらいですか」
「1、2週間、いや、明日にも」
 ついに、麻衣子の最期がやってきてしまう。私は、ただ、辛くて悲かった。
 午後2時過ぎ、私はいったん病院を出てアパートに帰り、午後5時50分に病院に戻った。夜、麻美がお風呂に入りたいというので、近くにある銭湯に連れて行った。
23:43 血圧 82-51
 
11月25日(水) 
9:00 麻美と美帆はいったん、団地に戻った。そして、午後2時15分までには、病院に戻って来た。
9:26 血圧 83-42
11:00 清拭、そのほか吸引などの措置。
13:10 検温37.5度 血圧93-57
  ・・・・・・・・
 このころ、私は、メモをとる余裕をなくしていた。だから、ノートに記録として残っているものが少ない。
 午後2時半、Z生命の担当者が病院まで来てくれた。入院給付金の書類を記入して渡した。
 午後3時過ぎ、私は、病院を出て、アパートに戻った。麻衣子の容態は相変わらずの低血圧だ。死に至るのか?
 夜、アパートで、私は、オーストラリアへ行ったときの麻衣子の写真をA3ノビサイズで印刷した。ネットで注文してあったトトロののれんと麻衣子のネグリジェも届いた。
 
11月26日(木)
9:30 麻衣子の病室へ。昨夜は麻美と美帆が泊まった。そして、今日は、私と義母と麻美が付きそう。麻衣子は呼吸が弱いような、でも、まだまだ元気のような気がする。
10:20 検温38.4度 血圧 85-51
11:10 看護師さんに、麻衣子が病気になった頃のことを話した。
 夕方、美帆が来た。麻美と義母を、今夜宿泊する旅館まで車に乗せて行った。
19:10 体位変換
19:50 検温37.8度 血圧88-50
 
 ・・・・・・・・・・
 麻衣子の顔色は悪く、確かに、体の状態は悪くなった。血圧が下がって危険な状態ではあるが、でも、まだまだ、大丈夫な気がする。

麻衣子の記録 連載第105回

11月22日(日)
9:35 麻衣子の病室へ。熱はないが顔色が悪い。薬を飲ませる。左手に触れたら、痛そうな表情をした。苦しそうな表情、泣きそうな表情をしている。
9:45 オムロン37.1度。尿の色は良くなってきているような気がする。
11:10 検温36.8度
11:30 「あーん」という声を出す。痛そうな表情だ。
12:00 点滴のラインの交換。
12:25 尿の色がきれいになってきた。
12:30 オムロン37.2度。ちょっと熱が上がったか?
 
11月23日(月) 勤労感謝の日
9:45 麻衣子の病室へ。
9:54 オムロン37.1度。尿もきれいに、手のむくみが大分良くなった。薬を飲ませる。
10:10 検温37.1度
10:20 義母が来る。宿泊する予定で来てくれた。
10:25 看護師さんによる口腔ケア。
13:10 喉がゼーゼーしているので、吸引をしてもらう。
13:50 喉がゼーゼーしているので、水を飲ませる。
14:30 くしゃみをしたので、毛布を掛けてやる。
15:00 時折、喉をゼーゼーさせるが、落ち着いている。
20:45 検温37.6度 血圧107-62 
 血圧が89-57で危険な状態。看護師さんに家族を呼んだ方がいいと言われ、美帆に伝えた。美帆が連絡したらしく、義母もやって来た。麻衣子の熱は低く、おしっこの色もきれいだ。気になるのはちょっと早めの呼吸。

麻衣子の記録 連載第104回

11月19日(木)
9:25 麻衣子の病室へ。熱がある。尿が黒い。血尿のようだ。薬(いつもの抗てんかん薬)を飲ませる。
10:41 オムロン39.2度
10:50 熱があり、お風呂に行けないので、清拭。
10:55 検温38.0度 
12:00 口の中をきれいにする。口を開けてくれたので、綿棒、歯間ブラシ、一束ブラシ、スポンジ歯ブラシなどを使って、時間をかけてきれいにする。
13:25 オムロン37.1度
13:30 検温37度。氷枕から冷やし枕へ。
14:00 褥瘡の診察があった。
15:30 オムロン37.2度
17:10 オムロン37.1度。すやすやと眠っている。
17:40 オムロン37.1度
・・・・・・・・・・・
 
 時々、麻衣子の顔は黄色になった。
 
11月20日(金)
9:50 麻衣子の病室へ。薬を飲ませる。水を飲ませる。
9:59 オムロン38.3度
10:50 検温38.2度
13:10 検温37.6度
13:17 オムロン38.0度。顔色が悪い、黄色い。
14:25 オムロン37.5度。熱のために洗髪は見合わせる。ベッドの上にいるのは、本当に麻衣子なのだろうかと、つい思ってしまう。
15:00 検温37.3度 
16:40 オムロン37.0度。 
 主治医(院長)が診察に来る。看護スタッフから、黄疸が出ているのではないかという報告を受けたらしい。でも、主治医が来たときには症状が出ていなかったので、「これから、注意深く観察していきます」ということだった。
17:10 オムロン37.0度 
17:50 薬を飲ませる。水を飲ませる。熱が下がったためか、落ち着いた表情をしている。
 ・・・・・・・・・・・
 体が黄色い。おしっこも黒い。これから、容態がさらに悪化していくのかもしれない。
 
11月21日(土)
9:30 麻衣子の病室へ。顔色が悪い。
9:43 オムロン37.2度 
9:50 検温37.1度 血圧 119-82 安定している。
12:25 顔色は黄色さがなくなったが浅黒い。いや、やっぱり黄色い。
12:32 オムロン36.9度。落ち着いている。
12:50 検温36.4度 
13:00 美帆が来る。

麻衣子の記録 連載第103回

11月17日(火)
9:55 麻衣子の病室へ。
10:00 薬を飲ませる。  
10:03 オムロン37.4度
10:25 検温37.6度 冷やし枕に。
12:36 オムロン37.2度
13:00 検温36.8度
14:30 オムロン37.3度
15:33 オムロン37.7度
16:40 大学病院のT先生が来た。変わらない状態が続いていること、落ち着いていること、先週の木曜日には1ヶ月半ぶりにお風呂に入れてもらったこと、熱は冷やしてもらってコントロールされていることなどを伝えた。T先生は、「良かった、良かった」と言った。
17:12 オムロン37.7度
17:20 検温37.6度 
17:25 薬を飲ませる。乳酸菌飲料を飲ませる。
18:05 オムロン37.5度
 ・・・・・・・・・・・
 麻衣子の契約するN生命から、入院給付金が私の口座に振り込まれていた。ありがたい。麻衣子のお陰だ。
 松本清張「疑惑」をテレビで見た。これから、しばらくは、夜はテレビで映画作品(松本清張など)を見ようと思う。
 今日の買い物・・・卵、筋子、鮭、肉、キャベツ、レタス、なす、タマネギ、サラダ、のり、ミカン、納豆、粉末しじみ汁、うどん、ノンアルコール飲料、鍋だし、ラップなど。
 
11月18日(水)
9:50 麻衣子の病室へ。薬を飲ませる。
9:58 オムロン38.5度 
10:30 検温38.1度。看護師さんによる口腔ケア。
12:00 オムロン38.2度
12:35 オムロン37.9度。体温が下がり始め、落ち着いてきた。
12:55 検温37.9度。お風呂は無理だろうな。
13:20 体位変換。 
13:50 オムロン37.7度
14:35 テルモ36.81度
15:35 オムロン37.2度
16:30 オムロン37.7度
17:15 検温37.7度。薬を飲ませる。
18:50 オムロン37.7度
 
・・・・・・・・・・・
 今日、聾学校の教頭先生が来た。12月中旬に期限を迎える麻衣子の休職期間が延長されるという。今後も半年ごとに。仮に、このまま定年まで生きても、大丈夫という。でも、そんなに生きるのは難しいだろう。でも、給料の何割かのお金をもらえるのは本当にありがたい。今は、カードが使えないので、払い戻しはできないが。
 教頭先生に麻衣子の現在の病状を話した。それから、教頭先生から異動希望調査の用紙を渡された。こんな状況でも、異動希望は提出しなければいけないのだ。もちろん、「現在校希望」と私が代理で記入するのである。これまでの勤務歴も記入する必要があるから、学校要覧を探さなくては。
 保険の住所変更はすべて済んだ。いままで、入院給付金の手続きを美帆に任せていたが、これからは、事務手続きも、後見人かつ代理請求人である私が行うことにした。

麻衣子の記録 連載第102回

11月14日(土)
9:45 麻衣子の病室へ。氷枕をしていない。熱は大丈夫と思ったが、実際は、39度近い高熱だった。
10:04 オムロン39.0度
10:55 検温38.7度
11:45 テルモ38.48度 
12:40 テルモ38.57度
13:10 体位変換
13:17 オムロン38.6度
13:58 テルモ37.91度。熱が下がってきたためか、落ち着いてきた。
14:23 テルモ37.91度
14:25 検温38.0度
14:54 テルモ37.40度
15:33 テルモ37.14度
16:10 オムロン37.8度。熱は37度台まで下がった。
17:03 オムロン37.3度
18:12 テルモ36.83度
 
  ・・・・・・・・・・・
 今日、麻衣子は朝から高熱を出した。でも、冷やしてもらって、午後にはだんだんと熱が下がり、落ち着いた。
 夜、私のアパートにNHKが受信契約に来た。さすがに早いね。衛星契約にして、口座引き落としの手続きをした。
 
11月15日(日)
9:30 麻衣子の病室へ。オムロン38.4度。うなってはいない。
10:30 看護師さんによる口腔ケア。 
 麻美、美帆が来る。義母が来る。
 私はアパートに戻る。
 
11月16日(月)
9:45 麻衣子の病室へ。検温38.0度。「うーん、うーん」とうなっている。清拭。口腔ケアをしてもらう。
12:15 まだ、うなっている。
12:17 オムロン37.9度 
13:19 オムロン38.5度 
13:30 検温37.7度
14:35 テルモ37.19度
15:22 オムロン37.5度 
16:50 オムロン37.4度。すっかり穏やかになった。
17:10 すやすやと眠っている。
17:12 検温37.2度
17:40 薬を飲ませる。乳酸菌飲料を飲ませる。
 
  ・・・・・・・・・・・
 麻衣子は、朝から38度の熱を出した。なかなか下がらなかった。午後3時頃、熱が下がり始めた。
 美帆は、まだ、麻衣子の保険証や免許証を私に返そうとしない。預金通帳も、生命保険証券もそうである。生命保険の住所変更は、まもなく終わる予定だ。美帆はもう生計を共にする同居人ではない。

麻衣子の記録 連載第101回

11月12日(木)
9:45 麻衣子の病室へ。病室には美帆がいた。朝の薬は美帆が飲ませたという。今日は勤務が11時からだという。
9:53 オムロン36.8度。落ち着いている。
10:30 口を動かしたので、乳酸菌飲料(4ccぐらい)を飲ませる。
10:35 検温の時、看護師さんと話をした。麻衣子の体はまだまだ元気とのこと。看護師さんは「意思が表出できたらいいのにね」と言った。
11:00 看護師さんによる口腔ケア。
12:08 オムロン37.0度
12:45 検温37.0度。久しぶりにお風呂には入れてもらえるかもしれない。
12:50 オムロン36.8度
13:55 オムロン37.2度
14:05 医師が麻衣子の褥瘡の診察に来る。
14:20 お風呂に行った。お風呂の後、体温が37.5度に上がった。だから、麻衣子はうなっていた。
16:45 オムロン37.9度
16:50 薬を飲ませる。乳酸菌飲料を飲ませる。
17:00 オムロン38.1度
17:30 オムロン38.0度
17:55 オムロン37.9度
18:05 オムロン37.9度
 
  ・・・・・・・・・
 点滴の落ちが悪く、調整があった。そのとき、麻衣子の痩せ細った膝と腿を見て、悲しくなった。
 
11月13日(金)
9:50 麻衣子の病室へ。熱もなく元気そうで穏やかだ。乳酸菌飲料を少量飲ませる。
9:56 オムロン36.9度 
10:20 検温37.0度。冷やし枕になる。落ち着いている。
11:00 テルモ36.69度
11:05 看護師さんによる口腔ケア。
12:00 オムロン36.8度
12:40 テルモ36.42度。とても落ち着いている。
13:00 検温36.5度
13:55 オムロン36.7度
16:10 オムロン36.7度
16:43 薬を飲ませる。
17:15 オムロン36.7度
   ・・・・・・・・・
 朝、笠間の姉から電話があった。麻衣子や美帆のことを話した。そのうち、私のアパートに来るということだった。
 かんぽ生命の住所変更の書類を記入して、ポストに投函した。もう一つの保険会社の住所変更の手続きをしなければと思う。
 宅配便を午後7時に受け取ることにしたので、早めに病院を後にした。

麻衣子の記録 連載第100回

11月10日(火)
9:45 麻衣子の病室へ。薬を飲ませる。少しうなっている。額を冷やしてやると落ち着いた。下剤(水薬)を飲ませる。乳酸菌飲料を飲ませる。
9:50 看護師さんによる口腔ケア。
9:55 オムロン37.7度
11:00 うなり声もなく落ち着いている。
11:25 検温37.7度
12:05 テルモ37.03度
13:05 検温37.5度
14:55 オムロン37.0度
15:45 歯をきれいにする。音がするので、鼻の穴を綿棒できれいにしたが、鼻の中に大きな塊があった。そのためにヒューヒューと音がしていたようだ。
17:05 そろそろ薬が来るだろう。談話室では、配膳が始まっている。
17:15 大学病院のT先生がくる。いろいろな話をする。
17:25 薬を飲ませる。乳酸菌飲料を飲ませる。
17:30 義母が帰った。
  ・・・・・・・・・
 病院から麻衣子の診断書をもらった。早速、入院給付金請求の資料をそろえ、封筒に入れた。病院からの帰りに、ポストに投函した。
 
11月11日(水)
9:45 麻衣子の病室へ。氷枕も冷やし枕もしていないので熱がないのかと思ったが、額も体も熱い。体温計で測ってみると、熱があった。薬を飲ませる。額をタオルで冷やす。
9:48 オムロン38.4度 
10:30 今は声も出さず落ち着いている。
10:35 鼻の穴の中をきれいにする。
10:45 検温37.7度
11:30 看護師さんによる口腔ケア。
12:08 オムロン38.3度
13:05 検温37.5度
13:19 オムロン37.4度。落ち着いている。
14:45 オムロン37.0度。とても落ち着いている。
16:46 オムロン36.3度
16:50 検温36.1度
17:00 薬を飲ませる。
17:22 オムロン36.2度
17:30 幸せそうな表情で眠っている。
 ・・・・・・・・・
 郵便局から、簡易保険の住所変更の手続きについて、連絡があった。

麻衣子の記録 連載第99回

11月8日(日)
9:35 麻衣子の病室へ。薬を飲ませる。
9:44 オムロン37.0度 テルモ36.65度
11:20 看護師さんによる口腔ケア。
11:30 オムロン36.8度。でも、麻衣子はうなっている。
13:40 テルモ36.32度。でも、麻衣子はうなっている。
14:30 おむつ交換、体位変換
16:15 落ち着いている。
16:22 テルモ36.72度
16:45 検温36.8度
17:00 薬を飲ませる。
 ・・・・・・・・・・
 朝、私は、お風呂のドアの樹脂パネルを割ってしまった。運動不足で足腰の筋肉が弱ったためか、体の感覚がにぶったためかはわからないが、お風呂の椅子に座るのに失敗し、その弾みで、ドアのパネルにぶつかり、割ってしまったのだ。これから、気をつけなければ。若くはないのだから。階段などにも、滑り止めが必要かもしれない。
 風呂のドアについて、いろいろ調べた。簡単に取り外しができるらしい。樹脂パネルとカッターを買って、自分で修理しよう。
 今日は麻衣子の熱は低かった。でも、うなっていた。肩の肉がほとんどないから、肩が痛むのだろうか。それとも、他の部分が痛いのだろうか。
 買い物リスト・・・マット、アクリル板、アクリルカッター、強力テープ、記録用ノート。
 
11月9日(月)
9:35 麻衣子の病室へ。薬を飲ませる。乳酸菌飲料を飲ませる。
9:55 オムロン37.4度。ちょっとうなっている。
13:20 検温37.5度
14:16 オムロン37.4度
15:10 オムロン37.1度
15:30 清拭。とても落ち着いている。うなってはいない。
16:55 薬を飲ませる。乳酸菌飲料を飲ませる。
17:20 眠くなってきたようだ。
17:35 オムロン36.7度。すやすや眠っている。
 
 ・・・・・・・・・
 お風呂のドアの樹脂パネルをネットで注文したので、それが届いてから交換作業をやろうと思う。かわりのゴムパッキンだけ買っていこう。作業中に、元のパッキンがだめにならないように。
 買い物リスト・・・ゴムパッキン。

麻衣子の記録 連載第98回

11月6日(金)
9:25 麻衣子の病室へ。薬を飲ませる。喉のネバネバをとる。麻衣子は落ち着いている。
9:55 オムロン37.2度 
10:35 検温37.1度。バルーン交換。熱が下がっていて、落ち着いているので、口を開けてくれる。それで、口の中をきれいにすることができた。うとうとしている。「カーカー」と喉から音を出している。
11:35 テルモ36.67度。落ち着いている。 
11:55 喉をきれいにして、久しぶりに乳酸菌飲料(5cc)を飲ませた。
13:10 検温37.0度。おむつ交換。とても落ち着いていて、表情も良い。
13:45 テルモ36.90度
14:20 体を拭いてもらう。
14:30 オムロン36.7度。麻衣子の無表情は脳が壊れているせいだ。でも可愛い穏やかな表情だ。熱も発作もないときには。
15:50 麻衣子がくしゃみをした。窓を閉めた。
16:25 テルモ36.60度
17:00 薬を飲ませる。乳酸菌飲料を飲ませる。
17:25 テルモ36.56度
  ・・・・・・・・・・
 朝、ワイシャツなどを洗濯した。窓口センターで住民票5通をもらってきた。麻衣子は朝から熱は低めで、とても落ち着いている。こんな状態が続くと良いのだが。
 宅配便で、TVが届いているとの連絡が入り、夜、受け取った。
 新しい物を用意すること・・・・バスタオル、タオルケット(麻衣子の入院用品)。
 
11月7日(土)
14:00 麻衣子の病室へ。午前中は美帆が麻衣子を見ていてくれた。
14:23 オムロン38.1度
15:31 オムロン38.0度
15:55 オムロン37.4度。熱は大分下がったようだ。落ち着いている。
16:55 薬を飲ませる。
17:00 オムロン37.1度。すっかり熱は下がったようだ。
17:10 検温37.1度。氷枕がはずされた。
17:40 テルモ36.73度。麻衣子は眠っている。
  ・・・・・・・・・・
 
 昨夜、美帆から電話があった。午後に用事があるから、午前中に麻衣子の付き添いをしたいという。それで、私は、午後2時までに病院へ行くことにした。大型テレビが届いたので、午前中に、ニトリに行って、テレビ台を買ってきた。それから、タオル2枚と突っ張り棒を買ってきた。アパートに戻り、早速テレビ台を組み立てた。すっかり、リビングらしくなってきた。昼食は焼きそばを食べた。
 麻衣子は38度の熱を出していた。昨日は、つかの間の平温だったのか。
 美帆の私に対する態度が、以前と違うような気がする。私の気持ちが通じたのだろうか。よくわからない。
 スマホを使って、クレジットカードの1枚について、住所変更をした。
 買い物リスト・・・物干し竿、アイロン、老眼鏡。

麻衣子の記録 連載第97回

11月5日(木)
9:35 麻衣子の病室へ。氷枕をしていないので、熱はないのかと思ったが、そうではなかった。38.5度以上の熱があるようだ。急いで、タオルで額を冷やした。最初の頃、ナースステーションで氷をもらったことがあったが、それ以降は、コンビニで買ったり、アパートの冷凍庫で氷を作ったりした。そして、クーラーボックスに入れて、病室に持ち込んだ。
9:49 オムロン38.7度 
10:10 検温38.2度。「ヒューヒュー」と喉からの音(3回ぐらい)が聞こえた。
10:15 看護師さんによる口腔ケア。顔と髪もきれいにしてもらう。
11:00 看護師さんに体を拭いてもらう。
11:50 テルモ37.88度。少し落ち着いてきた。
12:00 眠り始めた。
12:24 ヒューヒュー音が2、3回聞こえた。頭を低くする。
12:33 テルモ37.97度
13:10 ヒューヒュー音が4、5回聞こえる。ぜんそくのような音である。喉がなめらかになるようにと、水を飲ませる。(5cc程度)
13:20 検温38.1度。歯をきれいにする。
14:00 オムロン38.0度 
14:23 テルモ37.26度
14:52 テルモ37.17度
14:54 喉のヒューヒュー音(10回以上)
14:58 喉のヒューヒュー音。水を飲ませる。
16:04 オムロン36.8度。すっかり熱が下がって、うとうとしている。
17:00 あくびや吸い込む音。薬を飲ませる。でも、眠っているので、なかなか飲ませるのが難しい。その後、口を開けてくれたので、口の中のネバネバをたくさんとることができた。
17:25 オムロン37.0度
・・・・・・・・・・・
 記憶が鮮明なうちに、麻衣子の記録をまとめたいな。記録をまとめる作業はとてもつらいが、頑張ってやらなければならないと思う。
 明日の朝、窓口センターで住民票をもらわなくては。免許証、クレジット会社、保険会社などの住所変更をすみやかにやらなければと思う。

麻衣子の記録 連載第96回

11月3日(火) 文化の日
9:25 麻衣子の病室へ。氷枕をしていないが、額と体が熱い。体温を測ってみると、38度を超えている。すぐにタオルで額を冷やし始める。薬を飲ませる。
9:34 オムロン38.7度 
10:30 検温39.2度。頭と腋の下、太ももを氷で冷やしてもらう。
12:48 おむつ交換。体位変換
13:00 発熱でずっと、うなっていたが、少し穏やかになってきたような気もする。
13:28 オムロン38.8度
14:12 オムロン38.2度
14:10 落ち着いて眠り出した。
15:20 オムロン37.5度 
15:30 美帆が来たので、交替してアパートへ帰る。
 
11月4日(水)
9:35 麻衣子の病室へ。口の中をきれいにして、水を飲ませる。薬も飲ませる。歯をきれいにする。少し、うなっている。
10:04 オムロン38.3度 
10:30 看護師さんに口の中と顔をきれいにしてもらう。
11:00 オムロン38.2度 
11:05 義母が来る。義母に美帆のことで、また、愚痴を言ってしまった。
11:15 検温38.0度。氷枕、太ももを冷やしてもらう。
12:54 オムロン38.2度。落ち着いてきた。
13:05 検温38.2度
13:40 テルモ37.72度
16:20 義母が帰る。
16:33 オムロン38.0度。
16:45 薬と水を飲ませる。「ヒュー」という喉からの音が2度聞こえた。歯の裏の固まった汚れを取ってあげる。
17:15 検温37.6度。麻衣子は落ち着いている。薬が効いてきたのか眠そうにしている。
 
 ・・・・・・・・・
 今日は便が出たと看護師さんから聞いた。

麻衣子の記録 連載第95回

11月1日(日)
13:00 麻衣子の病室へ。美帆は団地に帰る。
13:59 落ち着いている。オムロン37.5度 
15:05 検温37.3度
17:05 検温36.6度。今までにないような平温になった。
17:45 薬を飲ませる。綿棒で口の中をきれいにする。
17:50 オムロン36.7度 
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 麻衣子の喉をきれいにしていたら、貝の干物のおつまみのような固形物が出てきた。
 保険の住所変更を申請した。本人ができないので、代理人である私が代わって行うことができる。私が受取人になっている保険金は、私の口座にしか入金されないだろうが、その手続きについても、「母さんのことは全部自分がやる」と言っている美帆に任せず、自分ですべてやるようにした。
 11月になった。こんなに長く病院へ通うとは考えもしなかった。でも、麻衣子が頑張って生き続けていてくれるのはうれしい。病院通いの生活の中で、いろいろなことを考えた。次なる生活を見据えて、引っ越しもした。ひとりで生きて行こうという覚悟もできた。
 昨日の美帆の電話は意外だった。今日は朝から病院に来てくれた。午後1時に交替した。お陰で、オイル交換やいろいろな買い物をすることができた。
 麻衣子は、これからどんな最期を迎えるのだろう。でも、もう怖くない気がした。できるだけ穏やかに、それだけが願いだ。
 
11月2日(月)
 朝、N生命(保険会社)へ提出する住所変更書類に必要事項を記入し、ポストに投函した。
9:35 麻衣子の病室へ。氷枕をしていたので、熱があるのかと思った。額も体も熱いような気がした。でも、実際に体温を測ってみると36度台であった。明け方には38度あったらしく、それで氷枕をしていたようだ。熱があるときには、「うーん、うーん」とうなり声を出すので、その時の方が熱のない時より、むしろ元気に思えてしまう。
9:51 オムロン36.8度 
10:20 検温37.2度。薬を飲ませる。落ち着いている。
13:00 オムロン36.9度 
13:20 検温36.7度。お通じがない。
15:15 オムロン36.9度 
16:50 検温37.1度。薬と水を飲ませる。
17:55 オムロン37.1度 
17:20 薬が効いてくると眠った。
 
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 今日は穏やかな一日だった。この病気は今後、どのような経過をたどるのだろうか。きっと、急な容態悪化ということなのだろう。熱がない時は、うとうとしている時間が長い。麻衣子にとっては、眠っているときが一番幸せな時なのだろうと思う。私も引っ越しして、ひと月近くなるが、新しいアパートの生活に慣れてきた。あとは、TVとTV台があれば、一応、家財道具はそろう。明日にも注文しよう。
 買い物リスト・・・粘着テープ、スティックのり、もっと強力な掃除機、ゴミ箱、ペール缶、TVとTV台。分波器。ケーブル。
 生命保険やクレジットカードなど、住所変更がたくさん必要だな。
 
私から麻美へ
今日は、これまで、高熱に苦しめられていたのが、嘘のように、穏やかでした。明け方には38度の熱があったようですが、その後は下がりました。明日も、今日と同じようだといいなあ。明日は、美帆も病院に来てくれると言うことです。お義母さんも4日には来る予定になっています。
 

麻衣子の記録 連載第94回

10月30日(金)
9:35 麻衣子の病室へ。顔を拭いて、薬を飲ませる。
9:52 オムロン38.2度
10:30 検温。体を拭いてもらう。
11:32 オムロン37.6度
13:30 オムロン37.6度
14:25 オムロン37.9度
14:55 テルモ37.11度。麻衣子は落ち着いている。穏やかだ。
16:20 オムロン37.1度。とても落ち着いている。熱は完全に下がった。
16:50 少し、口の中をきれいにした。
17:10 検温36.9度
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 郵便物転送手続きをした。住所変更の手続き、衣類の整理、麻衣子記念室の整備を進めなければと思う。
 数日前、弟から、叔母の死去の知らせを受けた。お悔やみは依頼した。不意の冠婚葬祭に備えて、ジャケットや礼服をクリーニングに出しておかなければ。クリーニングはみんな、麻衣子に頼っていたからな。
 買い物リスト・・・ヘアカッター、プラスティックの入れ物、ポリ袋、ゴミ箱、冷凍食品いろいろ、海苔、卵。
 免許証のコピーを取っておくこと。
 
10月31日(土)
9:35 麻衣子の病室へ。
9:45 オムロン38.1度 
10:00 検温38.0度 
12:07 オムロン38.6度。麻衣子はうなっている。
12:55 検温37.7度
13:45 オムロン38.5度
14:35 テルモ37.37度
15:25 テルモ37.29度
15:55 体位変換
16:00 テルモ37.22度
16:50 テルモ36.98度
17:10 検温37.2度
17:30 薬を飲ませる。
17:55 テルモ37.04度
 
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 病棟には、様々なスタッフがいる。男の看護師もいるし、ベテランも若い女性の看護師もいる。親切な掃除のおばさんも病室に出入りし、麻衣子に優しくしてくれる。また、看護師というより、介護職員のような人もいる。
 看護師で、ちょっと豪快な感じの女性がいた。私たちは、気さくにその看護師さんから、いろいろなことが聞けた。あるとき、彼女が、麻衣子の腕をつねった。麻衣子はしかめ面をした。看護師は、「まだ痛いという感覚が残っているのね」と言った。また、あるとき、こう言った。
「さあ、呼吸が先か、心臓が先か、でも、同時に止まることが多いのよね」