麻衣子の記録 連載第19回

6月9日(火)
 今日は麻衣子の59歳の誕生日だった。朝6時、麻衣子は顔をゆがめて泣いていた。落ち着かせようと、「思い出のアルバム」の童謡を聴かせた。「ぼこうのうた」(VTR)も聴かせた。表情を見ると、歌をじっと聴いているような気がした。そして、落ち着くような感じがした。ときどき、一緒に歌っているかのように、口を動かすようなこともあった。
19:54 「明日、麻美が来るよー、麻美が来るよー」と私が言っても、反応はなかった。
 
6月10日(水)
 朝、担当医が、病室にやってきた。その時、リボリトールは経口でしか服用できない薬だと知らされた。それで、口から飲むことができなくなった時のことが心配になった。転院については、病気が病気で、なかなか受け入れ先が見つからないという話だった。やってきた実習の看護学生といろいろな話をした。
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 美帆と交替して家に戻り、仮眠をして、夕方、再び、病室に入った時、美帆は、麻衣子にスイカを食べさせていた。麻美も来ていた。看護師さんが、手が拘縮してしまわないようにと、ガーゼを丸めて、握るものを作ってくれた。麻衣子はそれを両手で握って、胸の上に両腕を屈曲させていた。もう、麻衣子が自分の力でできることといえば、その状態で、左右の腕をわずかに動かすことと、首を動かすことぐらいだった。私は、かわいいママ赤ちゃんについて、娘たちに、「ママは病気になっても、かわいいね」と言った。
 廊下で、看護師長さんとすれ違った時、「夜、眠れていますか?」と聞かれた。私自身のことかと思って、「昼間は、家に帰って、仮眠しています」と答えた。
 看護師長さんは、付き添いをする私の体の心配をしてくれていた。いつも、無理をしすぎないようにという言葉をかけられた。
 病室に戻ってみると、美帆と看護師さんが麻衣子に薬を飲ませているところだった。3つの錠剤をゼリーで溶かして、飲ませていた。量がちょっと多すぎる気がした。頑張って飲ませようとしたが、うまく飲みこめない。スイカの汁とピーチゼリーのシロップを混ぜて、なんとか飲ませることができた。麻衣子は、少し、むせて、苦しそうだった。でも飲むことができてよかった。その後、看護師さんに歯磨きをしてもらい、体位を変えてもらった。
19:25 うつらうつらし始めた。私が、頬に触れると涙を流した。
20:00 担当医が病室にやってきた。これまでの麻衣子の様子を伝えた。
 夜、麻衣子は音を立てて寝るので、私はなかなか眠れなかった。簡易ベッドだったし、2時間ごとに看護師さんがやってきて、体位変換するので、そのときは起きていようと思ったことも、しっかり眠れない理由だった。