麻衣子の記録 連載第24回

6月19日(金)
 スーパーが10時開店で、スイカを買ってから、病院へ行ったので、午前11時30分頃になっていた。「おつかれさん、もうかえっていいよ」というと、美帆はプイッと帰った。怒っているらしかった。突然、泊まらされたのだから、当然だな。
 さらに弱々しくなった麻衣子は、ぼんやりとした状態だった。そして、すやすやと眠り出した。ちょっと、びっくり反射があって、目を覚ました。もう、呼びかけにはほとんど反応しない。
11:55 薬が効いているのか眠っている。時々目を開けるが、弱々しい。この方が、発作で苦しむよりも幸せだとは思う。喉が渇くのではないかと思って、乳酸菌飲料を少し飲ませた。時々、乳酸菌飲料をあげるのはいいことだと思った。検温37.0度。目を開けているときには、歌を歌ってやった。表情は良い。
13:42 目をピクピクさせる不随意運動が3分以上も続いた。
13:55 また、乳酸菌飲料を少量飲ませた。
14:05 遠くで聞こえる泣き声に影響されたのか、泣き出す。ビクッとした反射があり、「オーッ」と声も出した。その後、手足が動く発作が何回も続いた。大き目の発作の時は、激しい息遣いで歯を食いしばっている。額に触ると、ピクピクと痙攣しているのがわかる。
14:24 今は落ち着いている。私は歌を歌う。 
18:25 スイカの汁で薬を飲ませたが、その後も、発作は続いた。
18:55 穏やかになった。薬が効き始めたようで、喉を鳴らして、いつものように、口を半開きにして眠りそうである。右手が動いていたが、やがて寝入った。
 
6月20日(土)
4:58 よく眠っている。
5:05 顔をゆがめ、「あーあーあー」と小さい声を出して泣いている。
5:20 右足を大きくあげる発作が2回あった。その後も、何度か、腕を回旋させる、歯ぎしりする発作があった。今日は昨日と同じく、朝の薬を見合わせた。発作が比較的穏やかであったからだ。
10:12 3人の医師による回診があった。初めて見る顔ぶれだった。医師たちは、麻衣子の手足の動きを見たり、手をたたいて、反応を見たりした。そして、こう言った。
「手が硬直し、足が伸展している。大脳皮質がやられていますね」
 この言葉を聞いて、私は思った。脳が壊されてしまったことはわかりきっている。だからこそ、死の恐怖や不安に悩まなくて済んでいるのだ。私に、赤ちゃんのようなかわいい姿を見せているのだ。麻衣子は頭を後ろにそらせて、「あっ、あっ、あっ」と声を立てた。