麻衣子の記録 連載第25回

6月21日(日)
0:25 目を開けて、手を動かしている。何を考えているのだろう。考えることが果たしてできているのか。私はそのそばで、簡易ベッドに横になって、「お一人様で生きていく」という本をタブレットで読んでいる。お一人様なんて、考えたくもないのだが。
1:10 おむつ交換、体位変換
1:35 麻衣子はずっと起きている。頭と体が動く発作が続く。頭と体を押さえてあげた。「うーっ」と声を出した。
1:46 目を閉じて眠り出した。でも、また目を開ける。
1:55 喉を鳴らして、眠り始めた。
2:15 泣いたり、笑ったりしている。楽しいことでも、思い出しているのかな?
3:45 体位変換
4:25 私は冷やしうどんを食べる。麻衣子は起きている。
5:10 すごい歯ぎしり。
6:00 乳酸菌飲料を飲ませる。
7:20 ビクッとする上半身の反射が数回あった。
8:00 乳酸菌飲料を飲ませる。
8:05 眠り始めた。
8:15 リボトリール(朝の薬)は断った。
8:40 看護師さんが来る。麻衣子は寝ている。尿は出るのだが、便が出ない。便秘がずっと続いている。看護師さんと、お通じのことを相談する。
 
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 家に戻ってみると、麻衣子あてに親展で封書が届いていた。J銀行からで、尋ねたいことがあるので、連絡して欲しいということだった。私は、J銀行M出張所の担当者に電話をした。担当者の話では、キャッシュカードで50万円ずつ、頻繁に引き出されているので、詐欺に遭っていないかということだった。私は、家内が入院していて、その入院費用の支払いのためと、新しくマンションを買うので、お金を下ろして、別のところにプールしているのだと説明した。
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18:40 病室に戻り、付き添いを美帆と交替した。
18:45 発作があった。苦しそうだ。頬を押さえ、手を押さえてやったら、治まった。ビクッという反射が何回もあった。
19:30 まだ、起きている。ちゃんと、薬は飲んだのだろうか。
19:50 体が上下に動く発作。飲み込む喉の音。
20:05 顔に触れていると、皮膚がピクピクとして、電気刺激を感じた。それが、終わると、穏やかに目を閉じた。眠りそうだ。
20:20 おむつ交換、体位変換。まだ、目を開けている。赤ちゃんのように。
20:30 寝入りそうだ。顔を横に向けて穏やかな表情をしている。笑っているような、ぼーっとしているような感じだ。
20:38 口を開けて笑っているように見える。
20:40 目を開けている。
20:50 眠ったようだ。
21:30 ビクッとして目を開けた。でも、また眠るだろう。
22:10 ビクッとする反射があり、目を開ける。そして、また、眠り始めた。
22:20 声をあげて泣き出す。
23:45 ビクッとする反射で、点滴が閉塞する。
 
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 この時期、私は、マンション購入のことで悩んでいた。まだ、手付金650万円を払っただけで、残金が2850万円もある。私の貯金と、プールしている麻衣子の普通預金約1000万円を合わせると、なんとかなりそうだが、ちょっと、危険な資金繰りだ。6月末の中間金500万円と11月末の中間金500万円までは問題ないのだが、翌年2月の1850万円が、ちょっと厳しい。今後、麻衣子の医療費がどれぐらい必要になるのかもわからない。こんな状況にあっても、麻衣子名義の預金、証券、保険について、その詳細を知っているのは美帆だけで、私と麻美には決して教えようとしない。だから、麻衣子が亡くなった後の私の老後の生活資金も心配になる。それで、私は、美帆に、「手付金はあきらめてもいいから、マンション購入は止めたい」と言った。でも、美帆は承知しない。だから、2人の仲は、険悪になるばかりだった。どうしても、美帆がマンションをほしいというなら、残りは自分でローンを組んでほしいと私は思っていた。でも、美帆の考えは、はっきりしなかった。
 麻美からメッセージが来た。
 
麻美から私へ
私が心配なのは、母さんの容体はもちろんだけど、美帆と、父さんのことです。客観的に見ていて、美帆のイライラと元気のなさが、だんだん増しているように感じます。美帆が片付けにエネルギーが向かうのは、入院初期の頃のように、母さんと会話したり、世話したり、やってあげられることが少なくなってきて、寝てたり、ぼんやりしてる時間が圧倒的に多くなってきて、何か自分にできることをしてないと落ち着かないからじゃないかと。独りにしたくない、そばにいてあげたいって思う気持ちは、私たちにもあるけど、このままそばにいることが、みんなをじわじわ追い詰めてしまっているような気がして、誰の幸せになるのかなあって。私はそれなら、しっかり二人が休んで、元気に母さんと会える時間が昼間だけでもある方が、いいような気がします。
 
 そういえば、以前、看護師長さんから「大部屋に移るように手配しましょうか」と言われたと麻美が私に伝えてきたことがあった。私が、夜ずっと、麻衣子についているのを心配してくれたらしい。