麻衣子の記録 連載第30回

6月29日(月)
1:15 体位変換。ぐっすり眠っている。その後、点滴の閉塞が2回。
2:35 麻衣子は目を開けている。発作が起きているようだ。かなり大きな長い発作だった。寝ている間の発作は珍しい。ちょっと心配になった。点滴が閉塞したので、看護師さんに来てもらった。発作が多いので、朝の薬も考えましょうと、看護師さんは言った。発作が治まって眠り始めた。
 麻衣子の魂は生きているが、「私の人生の残り時間は少ない」と言った麻衣子はすでに死んでいるのと同じだ。なぜなら、麻衣子は自分の生を実感することはないだろうから。今、そばにいるのは麻衣子であって、麻衣子ではない。そして、次にやってくるのは、本当の死、肉体を失うことだ。
 「あーん、あーん」とうなった。もう、麻衣子は、病気で苦しんではいないだろう。何が何だかわからない状態なのだろう。今の麻衣子は、肉体的な苦痛はあっても、精神的な苦悩はないだろう。
2:55 手が動いている。首を横に向けて、口が半開きになった。
3:05 麻衣子は眠った。看護師さんが心配して2度来てくれた。薬の効果などについて話をする。
5:15 麻衣子が目覚めた。右手を動かしている。
5:45 全身が動く発作に苦しめられている。ついに、泣き出した。
6:10 発作が治まったかと思ったら、引き続き、強い発作があった。口を開き、全身反射。
6:45 引き続き、ひんぱんに発作が起こる。「うっ、うっ、うっ」と声を出した。
7:50 まだ、発作が続いている。泣き出す。
8:10 お茶と薬を飲ませる。その後、薬が効いてきたような表情を見せたが、全身が痙攣する発作が起きた。表情は苦しそう。声を出す。
8:40 落ち着いてきた。目は閉じている。右手は動かしている。左手は、私の指を握っている。
9:15 受持医ほか数人の回診。
 
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私から麻美へ
夜中の2時ごろに発作があり、5時過ぎからは断続的に発作が襲ってきて、辛くて、ママは泣き出しました。朝8時過ぎに薬を服用して、やっと落ち着きました。まだまだ、家族が24時間付き添わないといけない気がするよ。
 
麻美から私へ
父さん大変だったね。夜は薬が切れてしまったのか、少なかったのか・・。看護師さんに相談して見た?
 
私から麻美へ
ママの脳の状態は、日々変化しているはずだし、薬の反復使用による効果の変化もあると思います。私がママのそばにいるときのママの発作の状況は細かくノートに記録して、看護師や医師に伝えています。ネットで調べると、ミオクローヌス(四肢や体幹に同時的、瞬間的に起こる筋肉の収縮)は、やがて消失し、無言無動状態(植物状態)になるようなことが書いてあるから、発作がなくなるというのは、結局、より病状が進行し、死に近づくということでしょう。それは、それで悲しいことです。
 
17:50 私は病室へ戻った。さらに顔が痩せたような気がする。薬を飲んだところだという。ビクッとする反射(ミオクロニー)が頻繁に起こる。
18:30 大分落ち着いてきた。眠っている様子だが、時々目を開ける。麻衣子に頬ずりをした。
20:05 喉がゼーゼーしているので、お茶を少し飲ませた。
21:04 両腕を何度も上にあげて回旋させる発作が長く続く。次に、口を曲げている。ちょっと、苦しそうだ。
21:50 びっくり反射。眠れないようだ。
22:00 目と口と手、まだ発作が続いている。
22:20 ようやく眠り始めた。でも、また、目を開けた。体がひとりでに動いている。