麻衣子の記録 連載第57回

8月17日(月)
9:45 麻衣子の病室へ。点滴の針がなかなか入らなかったが、太い血管があったので、そこに差し替えたそうだ。昨日の後半の輸液を速度を速めて注入しているらしい。命綱はいつまで続くのか? 乳酸菌飲料を飲ませる。
10:30 検温。看護師さんから、「ご主人は物書きの仕事をしているのですか?」と聞かれた。病室で、天声人語の書き写しをしているところを見られたらしい。
「違います、以前、数学の教員をやっていました」と答えた。
11:00 薬を飲ませた。乳酸菌飲料をたくさん飲ませた。
11:08 右足収縮発作。発作は弱めで、落ち着いた表情。
11:20 薬が効いてきた表情になる。
12:05 穏やかだ。眠そうな表情で、目を閉じた。いちばん平和なときかもしれない。
12:20 喉をきれいにして、乳酸菌飲料を飲ませる。
13:00 喉のネバネバをとって、喉をきれいにしてやる。
13:05 唇がピクピクしている。首が動いている。喉を鳴らしている。
13:35 喉を鳴らしている。穏やかで、発作はない。
13:48 泣くような声を出したので、乳酸菌飲料を飲ませる。
14:30 元気がないというか、落ち着いていると言うべきか。それとも、さらに弱ってきたためなのか。
15:10 目を大きく開けて、元気な表情になった。
15:55 喉をきれいにして、乳酸菌飲料を飲ませる。
16:18 左頬、左足が動いている。喉から音が聞こえる。また、左足が動いている。発作の表情。でも、今日は発作が少ない。
17:35 喉で音を立てていたので、喉のネバネバをとる。
18:10 薬と乳酸菌飲料を飲ませる。
18:55 まだ、起きている。穏やかに。「くっ、くっ、くっ」と声を出した。これも発作なのか?
 
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 命はある。何か楽しみがあればいいんだけどなあ。でも、肝心の脳が壊されてしまったからな。
 何もしないで、生きているのは大変だ。でも、まだまだ、麻衣子の表情は元気だ。すぐに、終わりが来るとは思えない。
 運動機能や言語が失われるまでは急速に病気が進行したが、それ以後は実にゆるやかな感じだ。この分だと、まだ、しばらくは、小康状態が続くのではないかと思う。