麻衣子の記録 連載第68回

9月6日(日)
 私は団地から一刻も早く引っ越そうと、動き出した。看護師さんに、「今後、途中、病室を抜けだすことがあります」と伝えた。
 午前中に、研究学園駅前の不動産屋へ行って、資料をもらってきた。午後には、万博記念公園駅近くの物件の環境を見に行ってきた。
15:30 麻衣子の病室へ戻った。喉のネバネバをとってやる。穏やかな表情である。
17:10 検温37.0度。血圧は、下が高い。喉のネバネバをとる。
17:20 薬を飲ませる。乳酸菌飲料(いつもより、量は多め)を飲ませる。
18:35 喉のネバネバは黒っぽい塊になっていた。
18:43 やっと薬が効いてきたようだ。
 
私から麻美へ
研究学園駅前の不動産屋で、一人暮らし向けの賃貸マンション・アパートの資料をたくさん貰いました。もう一軒の不動産屋へ行こうと予定していましたが、そこで、尋ねようとした物件も扱えるというので、不動産屋はここだけにします。入居には年金受給額証明が審査の資料になるそうで、足りない場合は銀行預金のわかるものが必要だそうです。預金はたくさんありますし、不治の病の家内が亡くなると、私は大金持ちになるので、家を買ってもいいんだと豪語しておきました。それから、家内を亡くした後、精神的に立ち直れるように早く引っ越したいんだなど、私の重要な個人情報を、不動産屋の若い担当者にべらべらしゃべってしまうほど、私の精神状態は狂っています。落ち着かなければと反省しています。
 
麻美から私へ
とにかく聞いて欲しいという気持ちが強いのでしょう。いいところが見つかるといいね。焦らず決めてください。
 
9月7日(月)
9:40 麻衣子の病室へ。喉のネバネバをとる。顔を拭いてきれいにする。
10:05 薬と乳酸菌飲料を飲ませる。喉のネバネバをとる。
12:45 目がうつろ。右足収縮、右上半身が動く発作。
12:55 笑顔で、頬がピクピクする不随意運動。
13:00 大きく口を開ける発作、下唇も動く。検温37.5度。
13:17 担当者によるおむつ交換、体位変換
13:50 口を開く発作。「へっ、へっ」と声を出す。目は天井を向いている。
14:30 喉をきれいにした。口を結んで、尖らせている。
15:30 喉から、音を立てていたので、ネバネバをとった。「オワオワ」発作。
17:00 大きなくしゃみをしたので、タオルケットを一枚増やした。
18:00 薬と乳酸菌飲料を飲ませる。
 
 私は今後、どう立ち直っていけばいいのか? 麻衣子と美帆の件のダブルパンチ。「配偶者を失うと、立ち直りに、4年はかかる」と姉に言われた。「介護鬱にならないように、母のあとを追うように亡くなった父と同じにならないように」とも言われた。