麻衣子の記録 連載第106回

8 旅立ち
11月24日(火)
 午前中に主治医(院長)から話があった。延命をどうするかについてだった。もし、私が延命を希望すれば、人工呼吸器や輸血を始めとする、様々な処置をするのだろう。
 目の前のモニターには、麻衣子の体の状態を示す数値データが表示されていた。主治医には、このデータの数値で、麻衣子のわずかな残り時間がわかるのだろうと思った。
 主治医が言うように、やっと、ここで、「延命」というステージに入るのだ。これまで、義母や娘たちが「延命には反対!」と言ってきたが、それらは「延命」ではない。これからが、「延命」を希望するか、そうしないかの選択なのだ。私はそう思った。
「延命はいいです。家内は、これまで、散々苦しんできたのだから、もう、いいです。最期は、苦痛のないように・・・・・」
「もちろん、それはやります」
「あとどれぐらいですか」
「1、2週間、いや、明日にも」
 ついに、麻衣子の最期がやってきてしまう。私は、ただ、辛くて悲かった。
 午後2時過ぎ、私はいったん病院を出てアパートに帰り、午後5時50分に病院に戻った。夜、麻美がお風呂に入りたいというので、近くにある銭湯に連れて行った。
23:43 血圧 82-51
 
11月25日(水) 
9:00 麻美と美帆はいったん、団地に戻った。そして、午後2時15分までには、病院に戻って来た。
9:26 血圧 83-42
11:00 清拭、そのほか吸引などの措置。
13:10 検温37.5度 血圧93-57
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 このころ、私は、メモをとる余裕をなくしていた。だから、ノートに記録として残っているものが少ない。
 午後2時半、Z生命の担当者が病院まで来てくれた。入院給付金の書類を記入して渡した。
 午後3時過ぎ、私は、病院を出て、アパートに戻った。麻衣子の容態は相変わらずの低血圧だ。死に至るのか?
 夜、アパートで、私は、オーストラリアへ行ったときの麻衣子の写真をA3ノビサイズで印刷した。ネットで注文してあったトトロののれんと麻衣子のネグリジェも届いた。
 
11月26日(木)
9:30 麻衣子の病室へ。昨夜は麻美と美帆が泊まった。そして、今日は、私と義母と麻美が付きそう。麻衣子は呼吸が弱いような、でも、まだまだ元気のような気がする。
10:20 検温38.4度 血圧 85-51
11:10 看護師さんに、麻衣子が病気になった頃のことを話した。
 夕方、美帆が来た。麻美と義母を、今夜宿泊する旅館まで車に乗せて行った。
19:10 体位変換
19:50 検温37.8度 血圧88-50
 
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 麻衣子の顔色は悪く、確かに、体の状態は悪くなった。血圧が下がって危険な状態ではあるが、でも、まだまだ、大丈夫な気がする。