麻衣子の記録 連載第108回

11月28日(土)
 朝、美帆と交替する。私はアパートに戻る。
 午後、義母から電話があったが、電話には出なかった。
 麻衣子はあと何日生きているのだろうか。
 もう、ほとんど死んでいるようにも見える。
 麻衣子はもう危ない。
 私の看護生活もまもなく終わるだろう。
 美帆は、工面して、マンションの11月末中間金を振り込んだらしく、私の住所に領収書が転送されてきた。
 
11月29日(日) 天気 晴れ
15:00 美帆と交替する。
19:00 検温36.9度 血圧 82-48。また下がった。
24:00 検温37.5度 血圧 94-55
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 夜、麻衣子はとても落ち着いていた。まだまだ、大丈夫な気がする。体を動かすと痛いのか、声を出す。麻美や笠間の姉と、今後のことについて電話で話をした。
 
11月30日(月)
5:55 検温37.1度  血圧85-52
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 麻衣子が仲良しだったS先生が見舞いに来てくれた。
19:00 私は病院を出て、アパートに戻る。この日は美帆に泊まってもらった。 
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 この日の麻衣子のビデオ映像が残っている。9時51分29秒から28秒間の麻衣子の生前最後の動画である。私は、大学病院で余命1ヶ月を宣告されたとき、麻衣子がすぐに昏睡状態(植物状態)に陥ってしまうものと考えていた。でも、それは違っていた。麻衣子は、見えていないだろう目を、最期まで開けていて、まるで、物を見ているかのようだった。私にとって、何がうれしいかと言えば、それが一番だった。