麻衣子の記録 連載第73回

9月16日(水)
9:35 麻衣子の病室へ。氷枕をしている。額が熱い。 
9:50 薬とレモン水を飲ませる。看護師さんによる口腔ケア。検温36.6度
10:15 下剤を飲ませる。
10:30 眠っている。
11:25 幸せそうに、すやすや眠っている。
11:30 目を開けて、歯ぎしりしている。
12:30 突然泣き出したので、レモン水を飲ませる。
14:00 検温37.4度。お風呂は明日に延期。冷やし枕で冷やしてもらう。ちょっと、発作あり。
14:45 喉をきれいにして、レモン水を飲ませる。
15:35 目ピクピクパチパチの不随意運動。
16:00 眼球運動が変だ。重力を失ったように横に流れる。それをリズミカルに繰り返す。その様子はちょっと怖い。眼球を支える筋肉のコントロールが難しいのか? 首の筋肉も弱々しい。最近は、発作が少ないので、薬が待ち遠しいというようなことはなくなった。
17:00 検温37.7度 
17:12 目と頬がピクピクする不随意運動。
17:17 薬とレモン水を飲ませる。
17:25 喉のネバネバをとる。 
18:30 眠り始めた。幸せの時。
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 朝、美帆に、「10月1日に、アパートに引っ越す」と宣言した。美帆は食後の歯磨きをしながら、驚いた様子も見せなかった。ただ、すぐに住民票を移されると、住居手当がもらえないので困るとだけ言った。そして、麻美が来たときに話し合いたいと言った。住居手当以外は何も言わなかった。私は、世帯分離(転居)はスムーズに進みそうだと思った。
 引っ越し後に必要な物・・・調理器、鍋、フライパン、炊飯器、ポット、洗い桶、ボール、皿、コップ、茶碗、箸、スプーン、包丁。
 
9月17日(木)
9:50 麻衣子の病室へ。目を開けてくれない。
10:05 薬とレモン水を飲ませる。
10:20 喉のネバネバをとる。
10:30 少量のレモン水を飲ませる。
14:10 お風呂へ行った。
15:00 お風呂から帰ってきた。点滴やバルーンが戻された。
15:37 「オワオワ」発作。おしっこが詰まるため、水の点滴。 
16:55 薬とレモン水を飲ませる。
17:05 検温37.2度
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 昨日の夜、麻衣子と結婚したときに購入した木製のライディングデスクを動かし、今朝、半分を解体した。この際、できるだけ、不要な物は処分しよう。身軽になって、新しい生活を始めようと思う。
 特別室が空になった。隣の個室も別の患者になった。特別室の老女は亡くなったのかもしれない。老女の体の状態が悪くなり、交替して、麻衣子が特別室から個室へ移ったのは8月5日だから、あれから、1ヶ月以上経過している。麻衣子はまだ、体の状態が悪くなったとは言われていない。安心してもいいものなのか。火曜日に来た大学病院のT先生は、「熱が出なければ」と言っていた。私が、「まだまだ元気でいられるんじゃないかな」と言ったら、そうでないという顔をした。麻衣子もラストステージに入ったのかもしれない。昨日の麻衣子の眼球の動きも気になる。年は越せないかもしれない。
 それでも、私は引っ越しを決め、再スタートの方向性を決めたから、とても気持ちは楽になってきた。