2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

麻衣子の記録 連載第20回

6月11日(木) 3:30 麻衣子は歯ぎしりしてまどろんでいる。「ぼこうのうた」をハミングしてあげたら、また眠った。 4:14 看護師さんがおむつを交換したとき、泣き出した。「ぼこうのうた」を歌って手を握ってやると、また眠った。 5:10 朝の麻衣子は、赤ちゃ…

麻衣子の記録 連載第19回

6月9日(火) 今日は麻衣子の59歳の誕生日だった。朝6時、麻衣子は顔をゆがめて泣いていた。落ち着かせようと、「思い出のアルバム」の童謡を聴かせた。「ぼこうのうた」(VTR)も聴かせた。表情を見ると、歌をじっと聴いているような気がした。そして、落ち…

麻衣子の記録 連載第18回

6月6日(土) 4:35 幸せそうに眠っている。 4:47 麻衣子は起きている。「思い出のアルバム」の歌を聴かせている。「あー」「うー」という声を出すが、言葉にはならない。 ・・・・・・・・・・・・ 19:07 「二人は80歳」の歌を聴かせている。大きなあくびを…

麻衣子の記録 写真編6

海外旅行好きの義母の影響なのか、麻衣子は海外旅行が好きだった。私もそのお陰で、海外旅行の魅力を知った。それでも、やはり、私は国内旅行の方が良かった。私にとって、温泉に入り、おいしい海の幸、山の幸でお酒を飲むのが旅行での何よりの楽しみだった…

麻衣子の記録 連載第17回

6月2日(火) 美帆と私での、24時間体制の付き添いが始まった。翌朝、美帆が来て、バトンタッチし、私は家に戻った。そして、家で仮眠をとり、夕方になると、自転車で再び病院へ向かった。私は、できるだけ早く病院へ行って、美帆と交替してやろうと考えてい…

麻衣子の記録 写真編5

翌年、遺品を整理していたとき、麻衣子の本棚の中に、次のような本を見つけた。 小長谷正明 狂牛病 ~人類への警鐘~ 岩波新書中村靖彦著 脳と神経内科 岩波新書飯島裕一著 認知症を知る 講談社現代新書 やはり、麻衣子は、この病気に関する知識を持っていた…

麻衣子の記録 連載第16回

4 発作に苦しむ 6月1日(月) 麻衣子は大部屋から個室に移った。今夜から私が使う付き添い用の折りたたみベッドと布団とをレンタルする手続きをした。夜間は私が付き添い、朝になったら、美帆にバトンタッチする。私は、家に戻って仮眠し、夕方になってから…

ふたりは80才

youtu.be 「別に、人に聞かれるのは、かまわないんだけど、私から同じ質問はしないわ。自分で同じことは絶対に聞かない」 「私は、何度も聞いちゃうな」 と私は笑って言った。 「なんか、後悔してんじゃないの?」 「ちがうよ、私は、幸せだなあって、あなた…

麻衣子の記録 連載第15回

5月31日(日) 朝、私は麻美に鳥取に行くと宣言した。美帆と一緒には暮らせないと。 美帆の病院へ来る時の服装は、とても介護にふさわしいものではなかった。私は、いつも、それを気にしていた。だから、エレベーターのなかで、病院の介護の服装はジャージで…

麻衣子の記録 写真編4

麻衣子は毎朝必ず、出勤前に、ウォーキングをしていた。 そのコースのひとつ、D公園コースの途中には、つくばで唯一(?)行列のできる焼き芋店があった。 麻衣子が学校を休み始めてからは、このコースを私も一緒に歩いた。 焼き芋店は、開店1時間以上も前な…

麻衣子の記録 連載第14回

5月29日(金) 朝9時過ぎ、病院へ行った。麻衣子の病室に入った。麻衣子は両手を伸ばし、ベッドの隅に頭を落として、驚いたような、恐れたような、きつい表情をしていた。手を握って、体を楽にするように話したら、だんだんと体が弛緩してきた。「お義母さん…

麻衣子の記録 連載第13回

5月27日(水) 朝、10時頃、病室に着く。 「登場の仕方って大事だよねー」(麻衣子) 「入学式? 学校のこと?」(私) 「学校のことなんてどうでもいいんだよねー」(麻衣子) 「日付」(麻衣子) 「今日は5月27日、水曜日だよ」(私) 「5月27日、水曜日だ…

麻衣子の記録 写真編3

麻衣子は弧発性と診断された。 私たちは、家族や夫婦でたくさんの海外旅行をしたが、イギリスには行っていない。

麻衣子の記録 連載第12回

3 言葉を失う 5月26日(火) 朝、団地から契約駐車場までの道を、義母と美帆と私が歩いていた時、突然、コジュケイの親子らしい集団に遭遇した。彼らは、慌てて、草むらに逃げ込んだ。義母は、「親鳥は子供たちの反対方向へ逃げて、おとりになるのよ」と言っ…

麻衣子の記録 写真編2

ドイツから帰ってきた美帆はたくさんのお土産を買ってきた。 美帆から私が貰ったお土産は、乗り継ぎのヘルシンキ空港で買ったゴディバのチョコレートだった。(2015.5.3)

麻衣子の記録 写真編1

麻衣子はふるさと納税をいくつかやっていたが、そのなかには、米子市もあった。 麻衣子が天国に旅立った後、鳥取市に住んでいた長女の麻美は、米子に嫁いだ。 そして、今年、3月には、男の子を出産した。

麻衣子の記録 連載第11回

5月25日(月) 私が、「言葉で話すことはできなくても、言われていることはわかるものね」と話しかけたら、麻衣子は「五感があるからね」と言った。私が「夢を見る?」と尋ねたら、「学校の夢しか見ないもん」と答えた。 義母の来る日だった。そのことを美帆…

麻衣子の記録 連載第10回

5月21日(木) 朝9時過ぎ、麻美、美帆と私の3人で病院へ行った。麻衣子はベッドに座り、テーブルに肘をつき、手に歯ブラシを握っていた。テーブルの上にはプラスティック製のコップがあった。朝食後の歯磨きのようだった。ひとりで上手に歯磨きができそうに…

麻衣子の記録 連載第9回

5月18日(月) 午前11時、急に脳波の検査が入った。看護師さんに車いすに乗せられて麻衣子は検査に向かった。その検査中に麻美と義母が病院に到着した。1階のテラスで、私は疑われている病名について義母に話した。麻美からは、麻衣子の病名は義母にはまだ伝…

麻衣子の記録 連載第8回

2 入院と宣告 5月15日(金) 朝8時、埼玉から義母がやってきた。早速、3人と麻衣子の4人で、どうやったら、大学病院の脳外科の診察を受けることができるかについて相談を始めた。これまで、ずっと、「病状が進行したら、救急車を呼んで行けばいい」というの…

麻衣子の記録 連載第7回

5月10日(日) 麻衣子は朝起きると、左のこめかみあたりを気にしていた。 朝の着替えの際は、さらに援助が必要になった。朝の食事の時、考え込んでいるような様子で、なかなか食べ始められなかった。思い詰めたような様子で、涙が鼻に流れているようだった。…

麻衣子の記録 連載第6回

5月5日(火) こどもの日 今日は、私たちの結婚記念日だった。この日が最後の記念日になろうとは。 麻衣子は、早めに、お風呂に入ったが、タオルを見失ったらしい。麻衣子の声でわかった。そして、私を驚かせたのは、お風呂から出てきた麻衣子の格好だった。…

麻衣子の記録 連載第5回

4月28日(火) その日は、美帆がドイツから戻る日でもあった。そのため、朝、眼科まで麻衣子を送り、そのあと、成田空港へ美帆を迎えに行くことにした。麻衣子のことは心配だったが、診察を終えたら、ひとりで家に帰らせることにした。本当は、美帆には自分…

麻衣子の記録(クロイツフェルト・ヤコブ病の看護日記) 連載第4回

4月24日(金) 金曜日だった。朝、麻衣子が起きてきて、めまいがするから、今日は学校を休むと言いだした。私は「その方がいい」と言った。私は、内心、ホッとした。やっと、仕事よりも自分の体のことを優先する気持ちになってくれたのだ。無理をしないで、…

麻衣子の記録 連載第3回

2015年4月10日(金) この日の夜は、麻衣子の学校の歓送迎会だったが、なぜか、麻衣子は会に出席しないで、家に帰ってきた。歓送迎会を欠席することなど、今まで一度もなかったことなので、私は、どうしたんだろうと不思議に思った。麻衣子は、目の具合が悪…