麻衣子の記録 連載第46回

7月28日(火)
9:50 麻衣子の病室へ。乳酸菌飲料と水を飲ませる。顔をきれいに、口の中と喉をきれいに、髪をきれいにした。麻衣子はCDの音楽に合わせて、手を動かしているようだ。
10:20 ギター型発作だが、弱い。
10:55 左足が収縮する発作が、かなり長く続いた。鼻息が聞こえるが、それほどの苦痛ではないようだ。
11:00 薬と乳酸菌飲料を飲ませる。
11:10 口腔ケア(看護師さんと高校生実習の女子2人)をしてもらう。口の中の出血が多かったらしい。
11:15 収縮発作。左腕と左足が強く動く。発作が終わった後は、良い表情になった。落ち着いて、目を閉じている。
11:30 上唇と、目(瞼)がピクピクする。
12:00 大きく口を開けて、右頬がピクピク。発作だろうか。義母が来た。
13:05 検温。
13:45 水と乳酸菌飲料を少量飲ませた。
14:10 発作。左足、胸、顔に現れる。でも、穏やかに終わる。
14:30 右足が動く。
14:35 ギター型発作だが、弱い。喉を鳴らしている。
14:50 痴呆発作。続いて、収縮発作。
15:00 手、首を後ろに、胸が動く。担当者によるおむつ交換、体位変換
16:00 口の中、喉をきれいにしてやる。
16:25 再び、喉をきれいにしてやる。
16:35 大学病院のT医師が、病室に来る。特別室にいるので、「医療費は大丈夫ですか」と心配してくれた。
17:35 薬と水と乳酸菌飲料を飲ませる。
18:00 麻衣子の学校の同僚が見舞いに来てくれた。でも、先生たちが会ったのは、あまりに変わり果てた、悲しい姿の麻衣子だった。
19:00 検温37.2度。氷枕にしてもらう。私は病室を後にする。
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 駐車場で、麻衣子の同僚であり、かつて私の同僚でもあった2人と話をした。私が、「親子の関係ってむずかしいね」と漏らすと、「老いては子に従えって言うんじゃないの」と言われた。でも、私はまだ、子に従うほど、耄碌してはいないと思った。
 美帆がLINEで、N生命から私の口座に入院給付金を振り込みましたという連絡を受けたので、確認して欲しいと言ってきた。入院給付金は、麻衣子の口座に入れても、引き出すのが難しいし、私が、知っている麻衣子の口座は一つだけだ。
 麻衣子の入院費を支出しているのは私なのだから、代理人である私の口座に入金されるのは当然のことだ。請求手続きだって、私がやればいいのだが、美帆は、麻衣子のことは自分がやると言ってきかない。美帆には、そういうことこそ、私をないがしろにしているのだ、ということに気づいていない。美帆は、父親のことを、よほど能なしだと思っているらしい。
 麻衣子の休職は、5月15日の入院日から8ヶ月間で、来年の1月下旬までになるようだ。果たして、それまで、生きていられるかどうか。