麻衣子の記録 連載第75回

9月21日(月) 敬老の日
9:15 麻衣子の病室へ。顔を拭いてきれいにする。
9:30 おしっこでぬれたため、シーツ交換。
9:45 薬と乳酸菌飲料を飲ませる。
10:05 発作で体が揺れる。
10:40 検温36.6度
 
9月22日(火) 国民の休日
 朝、麻美と一緒に病院へ行った。病室で、麻衣子の朝の様子をみせた。喉のネバネバをとったり、乳酸菌飲料を飲ませたり、顔を拭いたりするところなどを見せた。
 麻美を通じて、美帆に麻衣子名義の預金の内容について、その詳細を明らかにしてくれと、しつこく催促した。やっと、美帆は、私と麻美に、麻衣子名義の資産のリストを見せてくれた。資産の総額は、大体、私が想像していた金額とそれほど違わなかったが、たくさんの銀行口座や証券、保険の詳細を、このとき初めて知った。美帆は、相続の後の3人の税金の額まで細かく計算していた。さすがだ。
 これらの資産は確かに麻衣子名義だが、本来は私と麻衣子の共有財産だ。私が毎月渡す生活費で家族が暮らし、麻衣子の給料はその多くを貯蓄するということで築いた財産だ。それは、私と麻衣子の老後の家や生活のためのものであって、パラサイトである美帆には全く関係のないお金だ。
 このリストの通りだとすると、仮に、法定相続したとしても、美帆は保険金と合わせても1000万円しか受け取れない。第一、麻衣子の入院が長引けば、マンションの完成までに、このお金すら手にすることができない。マンションの残金は、2356万円もある。どうやって払うつもりだ。これだけの麻衣子名義のお金があるし、麻衣子は美帆のために、マンションを買うことを決めたのだから、私に、お金を出してくれと言うのだろうか。でも、そうはいかない。もう遅い。今、私が持っている現金はこれ以上出せない。まして、麻衣子の入院がいつまで続くのかわからないのだから。
 私がマンション資金のために麻衣子の預金から引き出してプールしていたお金の意味合いは私にとってはすっかり変わった。それは、私が自分の預金からマンション購入のために、すでに、支出した1150万円の補填でもあるし、私が毎月支出している麻衣子の入院費のための資金だ。美帆には、私が麻衣子のお金を横領しているとまで言われた。夫婦の間で、横領罪なんて成立するはずがあるものか。
 美帆は、「母さんが自分のために考えてくれたマンションだ」と、何度も私に言った。私と麻衣子は、娘に、おもちゃを買い与えるように、マンションをポンと買ってやれるほど、大金持ちなんかじゃない。私は自分が住むことのないマンションに、今後一切、自分のお金を出さないことに決めた。
 麻衣子を麻美と美帆に任せて、私は団地に戻った。