麻衣子の記録 連載第56回

8月15日(土)
9:40 麻衣子の病室へ。乳酸菌飲料を飲ませた直後に発作があった。喉のネバネバをとって、顔をきれいにする。
10:10 薬を飲ませる。
10:15 乳酸菌飲料を飲ませる。麻衣子は元気だ。
10:20 看護師さんによる口腔ケア。「オワオワ」発作。検温、血圧測定。
10:33 唇と首、手が動いている。喉のネバネバをとる。 
10:40 落ち着いている。表情がとてもいい。
10:50 手や足が動いているが、表情は薬が効いてきたときのものになっている。眠そうだ。
12:23 乳酸菌飲料を少量飲ませる。
12:50 右足の収縮発作。右膝を押さえてやったら比較的早く治まった。表情も悪くはない。
12:55 乳酸菌飲料を飲ませる。
12:58 頬が動いている。 
13:05 両足の収縮発作。
13:43 また、眠くなっているようだ。
14:20 右足の収縮発作。膝を押さえてやると、すぐに治まった。
14:50 落ち着いている。
15:30 口を開けて、左足収縮。左足を押さえてやると、すぐに治まった。
15:40 担当者によるおむつ交換、体位変換
16:27 両足の収縮発作。両膝を押さえてやると比較的早く治まった。
16:45 右足の収縮発作。かなり強い。
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 麻衣子であって、麻衣子でないようなベッドの上の人。元気な頃の麻衣子とは別人としか思えない。顔立ちもずいぶん変わってしまったから。
 団地からM中央病院までは、20kmもあり、車で40分ぐらいかかる。途中の道路わきに、お墓がある。電信柱の「○○家」という葬儀案内の張り紙が目に入る。病院到着直前には、右手にセレモニーホールが見える。どうしても、気持ちが暗くなってしまう。
 
8月16日(日)
9:45 麻衣子の病室へ。口を開けていたので、喉のネバネバをとってやる。
10:00 薬を飲ませる。麻衣子を見て、まだまだ元気とうれしくなる。
10:15 乳酸菌飲料を飲ませる。
10:20 右足の収縮発作。
10:37 薬が効いてきたような表情。右足の収縮発作があったが、比較的早く治まった。
10:45 穏やかな表情だ。
11:20 検温、血圧測定。
11:55 目を覚ました。乳酸菌飲料を少量飲ませる。
12:08 乳酸菌飲料を少量飲ませる。
12:20 右足の収縮発作がおき、「うーん」と声を出すが、表情は落ち着いている。
12:30 乳酸菌飲料を飲ませる。喉のネバネバをとる。穏やかな表情である。どんな姿であっても、生きているのは素晴らしい、命のあることは素晴らしいと思う。 
12:55 両頬がピクピクしている。足もわずかに動いている。
13:20 「オワオワ」発作。
13:33 右足の収縮発作(強い)。
14:10 検温、担当者によるおむつ交換、体位変換
14:50 落ち着いている。
15:08 左頬がピクピク、音も聞こえる。上半身も動いている。 
15:25 「オワオワ」発作。頭、目がピクピク。苦しそうだ。
15:40 喉で音を立てていたので、喉のネバネバをとる。かなりの量であった。とった後は、喉の音が聞こえなくなった。
15:45 口と足が動いている。口を大きく開けた。
15:06 「オワオワ」発作。
16:35 喉のネバネバをとってやる。
17:00 検温、血圧測定。
17:15 薬を飲ませる。発作(上半身が動く)。
17:23 喉のネバネバをとって、乳酸菌飲料を飲ませる。
17:48 喉のネバネバ、かたまりをとる。
18:10 薬が効いてきた表情になる。麻衣子の本当の気分はどうなのだろう?
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 私が、今できることは次のようなことしかない。でも、くじけてはいけない。
 ・そばに付いていて、音楽を聴かせること。
 ・収縮発作が起きたとき、足を押さえてやること。
 ・薬や乳酸菌飲料を飲ませてやること。
 ・喉のネバネバをとったり、顔をきれいにしたりしてやること。
 ・体に触れたりしてあげること。
 病院から団地に帰った時、麻衣子はもうここには戻ってこないのだということを考えると、つらく悲しかった。でも、その現実を、やっと、受け入れることができるようになってきた気もする。