麻衣子の記録 連載第45回

7月27日(月)
10:00 麻衣子の病室へ。まず、乳酸菌飲料を飲ませる。そして、スポンジ歯ブラシで、歯をきれいに、ウェットティッシュで顔をきれいにした。
10:20 薬と乳酸菌飲料を飲ませる。ちょっと泣くので、また、乳酸菌飲料を飲ませた。音楽をかけてやると、手を動かしている。
10:55 とても、落ち着いている。
10:57 目をピクピクさせ、手は動いている。でも穏やかだ。
11:20 また、目をピクピクさせ、手が動いている。穏やかだ。「うーん」とちょっとうなっている感じもあった。
11:40 発作のようだ。目と上唇が動く。 
12:33 落ち着いて眠っている。赤ちゃんのように。右手の親指がピクピクと動いている。
13:35 ちょっと怒った表情。
14:09 竹内まりやの音楽をかけているのだが、麻衣子は右手を振っている。
14:20 落ち着いている。穏やかだ。
15:20 泣きそうだったので、乳酸菌飲料を少量飲ませた。でも、なかなか飲み込まない。
15:25 おむつ交換。便も出た。良い表情。乳酸菌飲料を少量飲ませた。
15:45 両足が少し動いている。声を出している。体を拭いてもらう。
16:35 体が少しこわばって堅くなっている。首を曲げていて、鼻息も聞こえる。
16:50 右足を動かしている。音楽に合わせているような気もする。
17:00 薬と乳酸菌飲料を飲ませる。薬の前に、口の中をきれいにしておく必要があると思った。
17:25 点滴交換。
17:45 それほどひどくはないが、目、両腕と胸が動く。発作か? 薬が効いて来るまでもうちょっとか?
18:15 目、頬、上唇がピクピクしている。
18:25 眠り始めた。でも時々目を開ける。
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アルツハイマー認知症は発症から終末まで、多くが10年以上の歳月で経過するのだと思いますが、家内の病気は、そのアルツハイマー認知症を超特急で行くような難病です。家内は、発症から、1ヶ月あまりで、その人格は失われ、赤ちゃんに戻ってしまいました。6月からは、脳の神経細胞が冒されたことによる四肢の不随意運動と、てんかん発作に苦しめられてきました。最近になって、発作が和らぎ、穏やかに過ごすことができるようになってきましたが、症例の少ない恐ろしい難病ですので、この先、どういう風に病気が経過するのかとても不安です。少しでも穏やかな最期をと願うばかりです。入院する前、「この病気から生還できたら、体験記を書くんだ」と家内が言ったとき、「それなら私は、24時間テレビの障害者ドラマの脚本を書くよ」と、その言葉に合わせました。ですから、何らかの形で、この病気と闘った家内のことを記録にまとめたいと思っています。来年の誕生日(6月9日)に家内へのプレゼントとして組み立てている「週間ロビ」も、頭部、両腕、右足まではできました。ロビが完成するときは、おそらく、家内は天国に行ってしまっているでしょう。
 
 今日は本当に穏やかな一日だった。穏やかに少しずつ天国に近づくなら、それはそれでいいと思った。麻衣子の魂は今、何を感じているのだろうか。